日本経済新聞 (H14-11-13)

子宮頸がんワクチンの副反応、新病態の可能性も

2014/11/13 6:30

 重い副反応が報告される子宮頸がん予防のHPVワクチン。この副反応について日本線維筋痛症学会と難病治療研究振興財団の研究チームが独自調査した結果を2014年9月に発表。接種後に起こる一連の症状を、「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)」ととらえて治療し、接種者全例の調査で原因を究明する必要性を訴えている。

 

 

厚生労働省はその撲滅を目指して2013年4月から予防ワクチンの定期接種化を始めたが、重篤な副反応報告があり、同年6月14日に積極勧奨を一時中止した

厚生労働省はその撲滅を目指して2013年4月から予防ワクチンの定期接種化を始めたが、重篤な副反応報告があり、同年6月14日に積極勧奨を一時中止した

「HPVワクチンを接種して1年以上たってから、全身の痛み、月経異常、体の震え、歩行困難、下痢、記憶障害など現代の医学では説明できないさまざまな症状が次々と起こっている。厚生労働省の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会は『心身の反応』『自然発症の紛れ込み』とするが、それでは説明がつかない。新たな病態であるHANSととらえ、原因を徹底的に究明すべき。健康な中学生が打つワクチンなので、今のまま放置すれば、ワクチン行政に対する不信を招きかねない」。今回の研究を率いた東京医科大学医学総合研究所の西岡久寿樹所長はそう強調する。

研究チームは、2014年3月末までに厚労省に報告された2475例とチームの医師たちが治療する44例を分析。その結果、「中枢神経症状を含む広範な疼痛などを有する重篤例」は、同省検討部会が認定した176例より6倍多い1112例と判定。複数の症状が出るのが特徴だが、報告された副反応症状7676件の3割にあたる2570件が高次脳機能障害、けいれん、意識レベル低下などの中枢神経症状だったという。

 

重篤なケースでは、ワクチン接種後、1年以上たってから意識消失、月経異常、歩行困難、記憶力低下など複数の症状が並行して起こっていた(資料提供:西岡所長)
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重篤なケースでは、ワクチン接種後、1年以上たってから意識消失、月経異常、歩行困難、記憶力低下など複数の症状が並行して起こっていた(資料提供:西岡所長)

 

研究チーム内で治療した44例の1例で、急性型と遅延型の症状が出た14歳女性のケース。原因が分からず病院を転々としたが、ステロイドホルモンや免疫抑制剤で症状が改善した
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研究チーム内で治療した44例の1例で、急性型と遅延型の症状が出た14歳女性のケース。原因が分からず病院を転々としたが、ステロイドホルモンや免疫抑制剤で症状が改善した

「重篤例は、ワクチン接種によって脳の中枢神経や免疫システムに異常が起きた可能性が高い。我々が診ている44例でも、多くの症例で脳内の血流低下がSPECT画像検査で確認されている。接種後30日以内に症状が出た急性型は44例中12例だったが、接種から症状発現までの期間は平均8.5カ月で、1年以上たって出る遅延型の症状の方がむしろ深刻」と西岡所長。

重篤な副反応が報告されたことから現在、厚労省は接種の積極勧奨を控えている。「ワクチンの対象年齢の中学生などは、原因と対策がはっきりするまで接種すべきでない。すでに接種した人は1~2年以上後に症状が出ることもあり得る。後の囲みにある、HANSの診断予備基準案のような症状で困っている人は難病治療研究振興財団に問い合わせを」と西岡所長は話す。

 

HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)の診断予備基準案(2014)
(1)子宮頸がんワクチンを接種(接種前は身体的・精神的な異常なし)
(2)以下の症状が複数ある
1.身体の広範な痛み
2.関節痛または関節炎
3.激しい疲労が6週間以上続く
4.心身・精神症状(記憶障害、突然の眠気、呼吸苦、脱力、環境過敏)がある
5.脳画像の異常
(3)以下の症状を伴う場合がある
1.月経異常、2.自律神経異常(めまい、頻脈、動悸、冷や汗など)、3.髄液異常
→(1)+(2)3項目以上、(1)+(2)2項目+(3)1項目以上でHANSと診断

 

現在「HANS」と思われる患者に行われている治療
1:診断予備基準案を基に「ワクチンによるHANS」の可能性を説明、不安を少しでも軽減させる
2:線維筋痛症治療薬(神経障害性疼痛の治療薬)を投与
3:ステロイドホルモン投与
新しい病態であり治療は模索段階だが、神経内科などで、全身に痛みが出る線維筋痛症の治療薬「プレガバリン」やステロイドホルモンの投与を受け、症状が改善する人もいる。

 

Q.ワクチン接種後すぐには何もなくても、症状が出る可能性はある?

ワクチンが中枢神経に達して症状が出るまでには時間がかかるので、1年以上たってから初めて遅延型の症状が出る人もいる。不明な点が多く2~3年以上たってから出る恐れも。

Q.すでに接種して気になる症状があるときはどこに相談すればいい?

難病治療研究振興財団が相談窓口(http://jmrf-nanbyou.org/jigyou_03.html#01)を開設中。所定の用紙に症状などを記入し、ファクス、メール、郵送で送付。受診先などの紹介も。

Q.今、ワクチン接種年齢の中学生は、どうすればいい?

現在も任意で接種を受けられるが、「原因・対策が分かるまでは、接種を控えるべき」(西岡所長)。その他の世代も同様。

Q.子宮頸がん対策で今、安心してできることは?

20歳以上の女性は、2年に1回は子宮頸がん検診を受診しよう。HPVワクチンを接種したとしても100%子宮頸がんが予防できるわけではなく、がん検診の受診は必須だ。

 

この人に聞きました

 

 

西岡久寿樹さん
 東京医科大学医学総合研究所所長。東京女子医科大学教授、聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター長などを経て2010年より現職。専門は全身疼痛、免疫疾患など。日本線維筋痛症学会理事長。

 

(医療ライター 福島安紀)

 

[日経ヘルス2014年12月号の記事を基に再構成]

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